2008年07月07日

ナウシカとタエ子、それぞれの矛盾

2008/06/13
二章 ナウシカとタエ子、それぞれの矛盾
三年次 安谷屋 邦尚

 映画のラストにおいて拍手やブーイングが起きるのは海外では当然の事だが日本でそれがほとんど無いのは礼儀正しいからだとされている。しかし、映画に対して意思表示をすることが礼儀であり、意思表示する事によって作品も良くなっていく。
ここでは作者の二つの作品に対する意思表示をまとめてみる。

(概要)
●「おもひでぽろぽろ」
1、「おもひでぽろぽろ」についてとその二つの大きな破綻
「流産に終った傑作」、「何らかの間違いで台無しになった野心作」=「偉大な失敗作」
「偉大な失敗作」を生み出す原因→「過剰な誠実さ」

「おもひで」の二つの大きな破綻
 映画の構成における破綻
 テーマの論理的破綻


 映画の構成における破綻
現在と過去の場面が異なった画調で描かれる→二つの場面が分裂したような印象を与える。
何故このような描き方をしたか?
→本筋である現在の部分が付け足しであるから。
何故原作に無い部分を本筋としたのか?
→監督には原作に矛盾した感情があったからである。
「レトロ気分を満たす為の映画を作りたくない」
    正反対の主張
「どのようなかたちであれ、過去を振り返る事は(自己確立)のための悪くない第一歩のはずだ」

 テーマの論理的破綻
・レトロ気分よりも自己確立に有効な手段として「人間の営みの根本」である「農業」、「農村」を用意する。
・しかし、「自然の脅威にさらされながら自然から奪い、もらい、それを食べて生きる」事が「人間の営みの根本」であるなら狩猟・採集こそが「人間の営みの根本」ではないか。

戦後民主主義=日本の伝統的・封建的なものを否定する思想。
村などの前近代的共同体は個人の自由を抑圧するものとして否定されるべき。
高畑は若者のレトロ気分を苦々しく思いつつ、農村への憧れも似たようなものだと気づいていたのではないか。
だから「レトロ気分を満たす為の映画を作りたくない」としながら、「どのようなかたちであれ、過去を振り返る事は(自己確立)のための悪くない第一歩のはずだ」という正反対の主張をしてしまったのだ。←「過剰な誠実さ」

●「風の谷のナウシカ」について
1、宮崎によるナウシカの正当化
・風の谷→腐海の毒に冒されて死んでいく運命を甘受して生きている。
・風の谷の隣国トルメキア→巨神兵で腐海を焼き払おうと目論む。

・司令官クシャナは族長・ジルを殺してしまう。←クシャナを悪役に仕立て上げるための手段。
2、ナウシカの矛盾
ナウシカがもし人間の事を思うのであれば、クシャナ同様腐海を焼き払おうとするべきだし、それに反対するのであれば、人間が腐海に呑み込まれて滅ぼされても仕方ないという立場をとるべきだが、ナウシカはどっちつかずの駄々っ子のような態度を取ったことにより、ナウシカは矛盾を抱える。
大海嘯を食い止る手段
 クシャナ:巨神兵を使って王蟲を焼き払う。一時は成功と思われたが結局失敗。
 ナウシカ:王蟲をおびき出すために使われた傷ついた幼虫を救い、一緒に群れの前に立ちはだかるだけというもの。クシャナのとった方法より確実性の点で明らかに劣っていたが奇跡的に成功。

→宮崎はヒューマニズムと環境保護を両立させようとして映画を崩壊させたのである。
3、二つの作品の破綻の原因
人間の特徴:「自分自身の環境を作り上げ、その環境のコントロール能力を自然から奪い取ろう」というもの→人間は本質的に反自然的な存在なのである。
農村共同体も彼等の技術水準が許す範囲で最大限自然を制御し、自然を支配したがっている。
高畑や宮崎の農村への憧れは基本的には戦後民主主義を信奉し、かつ前近代的な農村共同体に憧れるという屈折したものであり、農村共同体では個人の自立も可能であると信じている。しかし、環境保護を反ヒューマニズムだと認めることは農村共同体にはヒューマニズムが無いということに等しく、つまり農村共同体には個人の自立も無いという結論を導いてしまう。国家の存在を直視できないという戦後民主主義の特性こそが、これら「集団主義的戦後民主主義者」たちに国家に関わる統合枠としての農村への憧れを引き起こしているのだから、問題の根源はやはり戦後民主主義なのである。

(論点)
 この二人の監督は自分の理想を描いた映画が大衆に受け入れられると考えていたのであろうか。それともただ自分の理想を描くためだけに映画をつくったのか。
 実際に環境保護とヒューマニズムを両立させることはやはり不可能なのか。

以上


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Posted by 安谷屋 邦尚 at 12:49│Comments(0)レジュメ
 
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